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追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

milk tea

ご飯を炊く。3合、まとめて。
僕の家の炊飯器の限界。
「のの連続」とご丁寧にご指摘されたが、そのまま無視して入力する。
布団を干す。
よく晴れた日で、髪を切ったり、手首を切ったりはしないが、気持ちのいい空だ。
やかんがつかの間騒々しく鳴り響き、足をキッチンの方へと向かわせる。
休日は、静かだ。
いつもと同じ時間に起きて、特になにもしていなくても、時間はあっという間にすぎていく。
沸かしたお湯で何かあたたかい飲みものを入れる。
飲むのはいつもバラバラだったり、連続したり、その日次第だ。
紅茶、珈琲、グリーンティ、ルイボスティ、気になったお茶を買い、飲む。
訪ねてくる人はいないので、ひと度買ったものは、なかなか減らない。
ただ、待っている人はいる。おそらく訪ねては来ないだろうけれど。
掃除機をかける。
ウェットシートで拭く。
部屋をきれいにするのは、好きだ。家族と住んでた頃は、家事が嫌いだったのに。
特に母親なんかがこの部屋に来れば、驚くだろう。
僕はなぜ、一人なのに、きれいを保とうとするのか。
誰も来ない、この無駄に広くなった部屋に、何を求めているのか。
ご飯が炊ける。
ラップかタッパに一人前ずつわけ、冷凍室に入れる。
冷凍室には、いつか作った作りすぎたおかずの残骸がいくつか凍っていた。
カレー、野菜炒め、鯖の味噌煮、鰯の南蛮漬け。
食材にたいして、感慨深くはならない。
凍ったそれらはいつか溶かされて、食欲を満たしてくれる。
食べたら、おしまい。
だから、料理は好きだけど嫌いだ。
作って、ただ消えていく。
何も残らない。
瞬間は美味しいし、幸せになれる。
食べ進むにつれて、虚しくなる。
いただきますも、ごちそうさまもない。
鍋のまま食べる日すらある。
さて、そろそろ布団を取り込もう。
無駄に大きな、セミダブル。
無駄でしかないが、買い直すほど手間なことはない。
独り言が多くなった。
ほとんど見ないテレビを、つけたとき。
何かふとした出来事に驚いたとき。
嫌なことを思い出したとき。
改めて思うと、こうして淡々と事実を並べることに、何の意味があるのだろうか。
いや、何もない。何の意味も見いだせない。
空が突如暗くなる。これから雨だろうか。
雲が灰色を際立たせ、遠くから雷鳴が聞こえる。
遠くを歩く人、車、自転車。
どこからか漂う、甘い香り。
ホットケーキでも焼くのだろうか。
バターのような、生クリームのような、そんな感じの香りと、湿気を含んだ雨の匂いが混ざりあっている気がする。
人とは便利な生き物で、おかげで全くわかなかった食欲を、多少たたき起こしてくれた。
数秒の間の後、インターホンと気づき、僕は玄関へと急ぐ。
こんな日に、こんな時間に、仕事ならば絶対帰ってない時間に、誰が。
はやる鼓動は抑えきれず、窓を確認する手間すら惜しく、僕は戸に手をかける。
「久しぶり」
「あ、おう。あがってきなよ」
僕は今、平然とした顔ができているだろうか。さも当然と言わんばかりに、動揺などしていないふりを、演じられているだろうか。
君は、いなくなってからも、僕の心をかき乱すのがうまいね。
変わってないね。
当たり前か。
長い髪も、赤茶の目も、吸い込まれそうなくらいに見開いて、僕を見る。
ちょっと口を尖らしてるのは、君も緊張してるから。
僕のものだった君。今は、もう。
疑問は尽きない。なんで?なんで?
とりあえず、中に入ってからかな。ゆっくり、話そう。外は寒かっただろう。鼻なんて、真っ赤じゃないか。せっかく会いに来てくれたんだ。語り合って、何なら泊まっていきなよ。
色々な言葉が浮かんでは消え、沈黙が続く。
やっとひねり出せたのは、
「なんか、飲む?」
「milktea」