とりビー!
真横に置かれた、グラスに映る顔。肉を頬張るそれを見て、年齢を意識した。
ほんの少し前までは、若く見られていて、老けて見えるよう、貫禄を出せるようこころがけていた。
よく冷えたビールをうまい、と無理やり飲んでいたし、うっすら生えるひげを伸ばしてみることもあった。
自分を自虐的に年寄りだと言うこともあった。
僕は、年寄りになっていた。
言葉は言霊。本当のことになるから扱いに気をつけたほうがいいと、変わり者の奴に言われたことがある。
少し出た腹を撫で、本当にうまくなってしまったビールを流しこむ。
付き合いで頼む脂っこい料理を好むようになったし、塩辛い体に悪そうなものも好きになった。
聞き慣れた着信音。
「今?宅飲み中。オジサンの晩酌、付き合ってくれない?」
実際、オジサンに変わりはない。アラフォーだ。
電話相手もだが。
「しゃーねーなぁ。王子が言うなら、いっちょ行きますか」
彼女は僕を王子と呼ぶ。
僕は彼女を姫とは呼ばない。
呼んで恋愛になるのが怖いから。
アラフォーの恋愛など、数年振りの恋愛は僕の範疇に負えないから。
僕はずっと、彼女を名字で呼び捨てる。さん付けしないのは、せめてもの親しみアピール。
彼女の明るさと親しみやすさに、僕は救われる。
恋人でなく、もっと気軽なオトモダチ。
オトモダチからの格上げを、もしかしたら願われているのかもしれないけれど、今日も気づかないふり。
いつまで、我慢してくれるかな。
いつか、彼女は去っていくのかな。
何も言い出さない僕を見切って。
彼女が来るまであと数分。
涙の跡は悟られないよう、小細工を始める。
本当は泣き虫の僕。三つ子の魂百まで。
変わるわけないじゃん。
こんな僕を、愛してよ。
言えるわけない。
もう少し腹が出て、もう少し顔に肉も付いて、彼女が僕を王子と呼ばなくなったら、そしたら、言ってみようかな。
やっぱり言えないな。
さて、来るまでにもう一本。
とりビー!