追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

明日のSHOW

緩やかな脱力ののち、吐息が溢れる。
力を抜く心地良さは、味わった者にしか分からない。
噴き出る汗を持参した柔らかなタオルで拭き取り、お茶で喉を潤す。
仕事帰りの疲れた身体に鞭打ち、ジム通いを始めている。
同年代くらいがいれば、若い大学生くらい、老齢まで、年齢層が幅広い。
この街にいる人ばかりではないだろうが、電車で通ってまでだとするなら、熱心なものだ。
ターミナル駅のため、通いやすいんだろうか。
いつ来ても、僕が来る頃には全体が熱気に包まれている。
時折歓談する男女を見かけるが、どちらかというと黙々と目も合わせず鍛える人が多い。
僕が気付いていないだけで、出会う人たちもいるんだろうか。
僕の預かり知らぬところで、僕に迷惑さえかけなければ、好きにしてくれたらいいと思う。
一人で身体を動かしていると、ふと口先を尖らせ緊張をした面持ちの女性が通り過ぎる。
落ち着かなく目を漂わせ、事務的に何個かの機械を手に取り、冷やかし程度に体を動かしている。汗をかく様子もなく、そそくさとその場を去っていった。
彼女もまた最近始めた一人だろうか。
真新しいトレーニングウェアに、靴。
機械と距離を計りかね、人とも一線を引いているようだ。
ふと、先程の女性が置き忘れたであろう、青いボトルが目に入った。
入会するとき半ば強制的に勧められる、効果の甚だ怪しい飲料である。
ジムの各階に補給機が設けてあるため、利用者は少なくない。
頑として効果を認められない僕は、インストラクターの必死の販売文句に黙秘で勝利した。
それはそれとして、入会した人の氏名が入っており、共通の容器でも区別がつくようになっている。
「すみません、〇〇さん。」
僕を認めるや否や、不思議そうに、やはり緊張で唇は尖らせたまま、頷く。
消え入るような、しかし可憐な音を響かせ、瞬時に僕は魅了される。
興奮冷めやらぬ僕を他所に、事務的な受け取りを済ませ、彼女は去っていった。
帰路、偶然目の端に彼女を捉えたとき、僕は勇気を振り絞り近づく。
決して不審に思われてはならない。
その気持ちがある時点で申し分なく不審であるが、細かいことを気にしてはならない。
たとえ1%に満たない確率だとしても、僅かな期待を胸に僕は歩む。
輝く未来への一歩。
明日のSHOW。