追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

何度でも花が咲くように私を生きよう

名前を呼ばれ、扉を叩く瞬間私の脳裏をよぎるのはいつだって、あの扉。

あれは、15年前。
私は母のあつらえた洋服に身を包んでいた。
被服科を出た彼女は布地を買ってきては、私を着せ替えた。
市販品ではないそれが私だけの特別なもののような気がして、嬉しかったのを覚えている。

「どうぞ」

些末な中身は記憶にない。
ただ、あの時叩いた扉の淡い木目と、重厚な造りをしたドアノブを、私はずっと忘れられずにいる。
型通りの質問。
事前に何度も念入りに打ち合わせた内容を、口が勝手に話す。
当然ながら、微笑みも絶やさない。

見られること、話すことに慣れていた。
どう話せば喜ぶのかも、子どもながらに心得ていたつもりだ。
いわゆるおませさん、と言えば伝わりやすいだろうか。
私はそんな、大人からすれば扱いやすく、同級生には一目置かれ、ある意味では気難しい子どもだった。
だからあの日も、大人を上手く騙せる気でいた。

「貴女はこれから、何のために生きますか」

予定外の質問に、1番してはいけない沈黙を作ってしまった。
焦りが失敗を生み、なんと答えたのかも分からないくらい、思考が乱れた。
陰鬱な面持ちで私は帰ってきたらしい。

結局その日を境に、私の人生は少し変化があった。
それまで呼ばれていたお仕事の数々が雨露のごとく消え失せ、普通の女の子に戻ったからだ。

最初は特別さを失った悲しさがあったが、時間が解決していった。
時期としても、ちょうどその頃が潮時だったのかもしれないと思う。
入れ替わりの激しい世界だし、仕事がなくなっても気丈に振る舞えるほど、私は強くなかった。

実年齢より少し綺麗なだけの女性。
今となっては誰も昔を知らない。
だったはずなのに、また光を求めた。
はいて捨てるほどいる、元〇〇。
需要なんてない。
一縷の望みが私をこの世界に繋ぐ。

いいね、と言ってくれる人のため、
私は今日も扉を叩く。
あの日出せなかった答えを、今も出せずにいるけれど。
ひとつだけ大きな決意はある。

何度でも花が咲くように私を生きよう。