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追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

みつめていたい

女々しい兄と、昔からよく比較されてきた。
私はガサツで、大ざっぱで、男みたいな性格だと。
料理だって大味だし、取皿なしに茶碗の上に何でも乗っけるし、あぐらもかく。
豪快に笑うし、いつまでもうじうじと考え込まない。

そんな私が、考え込んでいる。
全ては、煮え切らない彼のせい。
もう、付き合って4年経つ。
私は彼の親を知っているが、彼は私の親を知らない。
会わないからだ。
付き合っていることすら言ってない。

幾度となく、勧めてはきた。
日程だって空けようと思えばいつでもできる。
彼の、繊細なところが好きだったが、煮え切らなさすぎた。

第一彼は、付き合うときから言葉にしなかった。
いつの間にか付き合っていた。
私ばっかりが好きで、追いかけて追いかけて、好きだと言っても、しばらく好きと返してくれなかった。

彼は、いつまで中途半端を続けるのだろう。
指輪も何も、与えられてない。
これからもずっと一緒にいたいとか、そういうのもない。

先について問うと、考えていると彼は言う。
何を、とは問えなかった。
あれは私の早合点で、彼にその気はないのだろうか。
じゃあなんで親に会わせるのか。
まだ早いのか。
いつなのか。
待っていられない。

私はただ、言葉が欲しい。
結婚しようとか、定番のプロポーズとか、そういうのが欲しい。
彼の方がいい年をした大人で、しかも一度は、そういうことをしたはずなのに、なぜ私には言わない。

私が子どもだからか。
年齢的にまだ幼いからなのか。
こんなにも、誰かを愛しいと思ったのも彼が初めてなのに。

気づけば、花を買っていた。
真っ赤なバラ。
自分がして欲しいことを、してくれないなら自分でしようと思った。
次に指輪。
もちろん指のサイズなんて、知らない。
深夜、隣でぐっすり眠る彼の手を取り、通販で買った指輪のサイズを測る器具をはめ込んだ。

店員の訝しげな視線を他所に、自分用と彼とのペアリングを求めた。
自分で、彼との相談もなしに買う結婚指輪。
ちゃんと、給料3ヶ月分の価格。
単なるロマンという名の自己満足のために、現金一括払いをしてきた。

私の愛した男が普通でないのだから、仕方ない。
手のひらで輝く、店員にはめられた小粒の光が誇らしげに輝いていた。
不思議と、悲しさはなかった。
なんて私はたくましく育ってしまったんだろう。

あとは、プロポーズの場所である。
夜景の見える少し高めのコース料理が出る店に、予約を入れた。
ベタだが、他に思いつく案もない。
彼の誕生日に合わせて設定した。
ケーキと花束を出すタイミングも、店員に話してある。

「一生幸せにする。愛してる。結婚して下さい」

手際よく取り出した指輪を見つめる瞳を、揺れるろうそくの光が照らす。
彼が、消え入りそうな声ではい、と返事をしたあと、座席から立ち上がり、彼を抱きしめた。

彼の涙を見ながら、やっぱり私は間違っていなかったのだと、確信する。
兄のように女々しくて、頼りなくて、ついつい世話を焼いてしまう。
まさかこんなことまで世話を焼くことになるとは思わなかったが。

「転勤の前に、伝えたかった」

「ありがとう」

「明々後日、休みでしょ。親の予定空けてるから、家に行こう」

「うん、待たせてごめんね」

「いいよ。そういうところも好き」

まだ涙に濡れている彼の瞳。
いつまでも見ていたい。
これからも、ずっと。

みつめていたい。