創作再開しました。不定期更新です

硝子のうさぎ

辺りは風が吹きすさんで、もう夏だというのに肌寒かった。
だけど、ポケットから取り出したチョコは半分溶けかけていて、生温い甘さを水で流し込んだ。
飲み慣れないコーヒーでも飲めばいいのかと思ったけれど、あいにく周囲には居酒屋ばかりが目について、一人で立ち寄れそうなところはない。
携帯に表示される既読が僕の胸を締め付けてやまないのに、それを訴える相手もいない。
風の音だけが執拗に僕の聴覚を刺激し、あてもない散歩を引き延ばさせる。

「おーい」
「さみしい」
「忙しいの」

どれも送れない。度胸がなく寂しさを飲み込んでしまう。
お腹いっぱいに寂しさを詰め込んで、もろくて今にも割れてしまいそうな心をぎゅっと温める。
僕にしか僕を慰めることはできない。

「まぁいっか」

声に出すことで、風が凪ぐ。
一瞬の安心を不安に駆られるたびに掘り返す。
自分で温めてもすぐに冷たくなってしまう。いつもすぐに冷たくなる。
暖かくしすぎると溶けてしまうから、溶けると僕が僕でなくなってしまうから、溶けないくらいのほうがいい。

もしも僕を愛してくれるなら、言葉をくれるなら、僕に好きと言ってほしい。
態度でも愛を示してほしい。僕を抱きしめて、見つめてほしい。
分からないのは嫌だ。本当に僕を愛してくれているのか疑うのも。

今すぐ、僕を見て。
今じゃないとだめ。
重たいなんて言葉、誰が流行らせたの。
遠慮してたのに、ふとしたときに溢れ出してきては僕を戸惑わせる、気持ち悪い気持ち。

君から返事が来ないから、僕は家に帰れない。
嫌いになるなら好きにならないうちにしてほしかった。
嫌いになったのなら言葉で言ってくれればいい。言われたら泣くけれど、言わずに真綿でやさしく絞め殺さないで。

ダイヤルを押しかけては、やめて、また押しかけて、やめる。
僕を探して、僕のことを考えて。1日のうち半分くらいは、僕が君のこと考えるのと同じくらいには、考えて。

たくさん思ったお願いは、言えないから、伝わらない。
もしかしたら返事が来るかもしれないから。そしたら徒労で済むから。

僕は硝子のうさぎちゃん。
ショーケースに入れて飾って。
ひび割れないように、寂しさで凍えないように、やさしくしてね。
そしたらずっと傍にいてあげる。
君のことずっと、見ていてあげる。