朝焼けに檸檬

アラサー。創作をしています。不定期更新です

なおしほし

お題箱から。

貝殻を集めるのが好きな男の子と星を集めたいと言う男の子のちょっと不思議な話

 

貝から音がすると言う。波の音じゃなくて、砂のこぼれる音でもない。僕の聞き間違いでも、おぼえ間違いでもなければ確かにこう言った。

「星の音がするんだ」

星に音があるのだろうか。遠い空の向うにある星たちは今も軽い明滅を繰り返すばかりで、長い筒を通して見ても、それが高価で性能の良いものでも、やはり音は聞こえなかった。

親の財布をかなり涼しくさせた立派な天体望遠鏡から視線を降ろすと、途端あまりきれいではない景色が見える。それでも静かな点はたいそう気に入っている。相変わらず夜遅くまで働いているスーツ姿の人たちが歩いているばかりで、車道と少し離れているからエンジン音はしない。外の音を聞き取るよりも、部屋の空調音のほうが鮮明に聞こえてくる。

もう一度空を見上げて思い返したのは、最近教わった理科の授業だ。今見ている空よりもさらに遠い宇宙という空間に音はなかった、とか言ってた。だから星に音なんて存在しない。

いつからだったか、星を眺めるのが好きだった。風の強い日や雪の降るほど寒い日でもベランダに出て、何時間でも空を眺められた。夜の闇に包まれていると、安心して呼吸できる気がした。昼はいやに明るすぎて、学校は最低限しか通えていない。

学校そのものがいやなわけではないと思う。行ったらみんな優しくしてくれるし、勉強もわからないわけではない。ただ朝日が昇る頃になると休みの日も平日も関係なく気分が塞ぎ込んでしまって、頭やらお腹やらの不調を訴えた。最初は心配をしていた母親も、次第にめんどくさそうに電話をするようになった。

病院に連れて行かれたこともあったけれど、とにかく僕は毎日学校に行くつもりがなかった。僕はココロのビョーキならしい。ビョーキのつもりはないけれど、医者がそう言ったのだ。よくわからないがおかげで僕は真面目に学校に通わなくてもよくなった。

さっき開封したばかりの封筒には、また貝が入っていた。気まぐれに学校からの配布物を届けてくれる恭平のお土産だ。恭平はなぜか貝ばかり入れてくる。休みの日は自転車で遠い町にある海まで出かけて、よく貝を拾ってくるそうだ。いつか僕だけの貝を見つけるための研究だと言っていた。僕もいつか自分の星を発見したいと毎日天体観測しているから少し似ている。僕らは全然違う性格だけれど、ちょっと似ているところがあるから友だちだ。

1度だけ、2人でこっそり抜け出して、夜の海に出かけたことがある。星空みたいに波間が輝いて月が映っていて、まるで時間が止まってしまったみたいだった。海は遠いしかなり疲れるけれど、また行ってみたい。

昼はもっときれいだと恭平はうるさく言ってくる。僕はいやだと言って聞かないから、いつもこの話はケンカのきっかけになる。まぁ、いつか、気が向いたら行ってやらんこともない。

貝に耳をあててみる。薄黄色で中途半端に巻いた貝がらからはやっぱり空調の音しかしない。と思っていると、ふいに高い、連続した音楽らしきものが聞こえたような気がした。笛のようなオルゴールのような、いや、僕の知らない楽器の音だ。何度あてても同じ音がする。

恭平も同じ音が聞こえるだろうか。これはもしかするとそのうち星になる貝かもしれない。大発見だ。なら、これは「なおしほし」。僕の星にしよう。