創作再開しました。不定期更新です

tip tap tap

顔を洗い、タオルで水気を拭き取る自分の顔と、目があった。クマがひどく、くたびれた顔だ。少し寝るのが遅くなっただけで、随分調子が悪くなる。30歳という年齢を嫌でも意識するし、30歳以降も坂道を下るようにやってくるのだ、という誰かに言われた言葉を思い出す。

昨日、彼女を追い出した。同い年のわりに頼りなく向こうみずで、仕事をすぐに放り投げる悪い癖がある。家事もいい加減だし、やる気がない。おそらくそのうち催促されるであろう、一緒に選んだ洗濯機や、電子レンジなどの家電はもう一度買えばいいから譲ってもいいが、正直もう顔を合わせたくなかった。

第一向上心がない。明確な目標が皆無だ。ただ甘えて生きようとするずるさがある。僕は、そういう生活を望んでいない。だから仕方なかった。

「真剣に考えてもらってなかったんですね」

娘の話を鵜呑みにした向こうの親から連絡が来たのは、日曜朝の9時だった。休みの日くらいゆっくり寝ていたい僕からすればいい迷惑だし、向こうの主張が僕と噛み合わないのはすでに折り込み済み。どう表現すればいいのかわからないが手垢のついた言葉で表現するなら、住む世界が違ったんだと思う。

30になった娘と1年も付き合っておいて将来のことも考えず適当に放り出して、いい加減な人間だ、というのが向こうの主張。そもそも早く結婚しろと刷り込み教育をしたのはおたくの方針で、僕らの最初の出会いはかなりいい加減だったし、こちらとしては罠に嵌められたという感じですよ、と言ってやりたかった。

おまけにできちゃったかも、産みたいなんて言われて、かなり参った。確かにそこに僕に責任はあるかもしれないけど、子供は欲しくないという僕の意思は最初から一貫して伝えていたはずだ。

「お金は出すから」

慰謝料だのと喚き散らす彼女に、これ以上付き合いたくなくてそれだけ言ってあとは黙っていた。とにかくうるさいしかわいくないし、どうして僕はこんな奴と付き合っていたんだろうと考えているところに、呼んでいたタクシーが来た。適当な金額を持たせて追いやり、やっと就寝できたと思ったら朝から電話。

人の話を聞かない上にほとんど何を言っているかわからないのも、そっくりですね、とも言ってやりたかった。結果、向こうの主張通り僕の年収くらいの慰謝料をふんだくられるが、親をかませて親同士となると埒があかないので、僕の裁量で、月額いくらいくら引かれる程度で突き放せるならそれでいいと思う。

僕はひどい男なのだろう。あれだけ言われたのだからきっとそうだという、妙に確信めいた気持ちがあった。では彼女は?彼女もまたひどい女だ。ヒドイモノ同士良かったのもしれない。かわいそうな人。これから彼女はどうやって生きていくのだろう。また誰かに甘えて、頼って、そうした旧時代の女のような生き方をしていくのだろうか。彼女の母がそうだったように。

tip tap tap

三十路の魂百まで

もちろん検索結果はない。哀れで不幸で、僕が一生のうちに少しだけ関わった他人。変わらない良さと、変われない辛さを学んだ。僕にはどうでもいいことだけど。まだ少しだけ関わらないといけないけど、そのうち、もう、知らない人。さようなら。