朝焼けに檸檬

アラサー。創作をしています。不定期更新です

全部、嘘。

 静謐の中に異物が混入する。整えた自我がかき乱されるように。

 まだ朝日の昇らない時間帯に聞こえるバイク音。規則的な寝息。鼻腔をくすぐるのは蜂蜜のように甘い香り。

 

 打刻音が平静を彩りつつ、日常へと回帰させる。他に何の音もしない静かな時間。僕の僕による僕だけの時間。何人たりとも犯すことの許されない大切な場所。

 ディスプレイほど機械的で簡素で私情を挟まない人工物はない。もちろん私情を挟まないのは無機物全般で、無感動のものに感情をぶつける行為は思考を鮮明にさせる。

 自己が他者になり、あたかも空想上の産物であるように仕向けられる。複雑な事象を平易に一般化して同情を乞う。あるいは、別の感情の想起を誘発させる。

 

 君の君にならざる具象化しない断片を、僕は拾い集めようとはしない。無意味な行為よりも有意義なあるいは価値を見出せるようなものを優先させたい。

 誰かの吐き捨てたガムを誰かは拾うだろう。潤んだ目でこちらを見つめる小動物に惹かれ、手元に置きたがるものもいるだろう。それはいずれも僕ではない。

 慈善や奉仕の類に限らず、世の中適材適所という言葉がある。時間が有限である以上優先順位の低いことには割けない。堅苦しい言葉に本音を混ぜ込む。

 

 日光、鳥のさえずり、朝の兆し。日が差すだけでまどろみは明瞭に、面白みのないものへと変化する。明るみに出ることほど無粋で下卑たものはない。

 懐に飛び込むならばどうぞお好きに。こちらからは必要最低限の干渉に留める。面倒なことはどうか持ち込まないで。曖昧なままで終わらせてしまって。

 薄い雲に紛れてタップダンス。響き渡る軽快な音に合わせて穴が開く。踏み外してしまわないように慎重に羽目を外す。

 洗濯機の中で回るのは理性と倦怠感。浮遊するのは本能と嘘。僕らにしか通じない暗号を考えて。でも、きっと次には忘れているからまた作り直そう。

 詩的に情緒あふれていても、暗喩は仄暗い穴の底で隠れている。包み隠すのは後ろめたいからではなくて、説明責任や義務を放棄している印。所謂人ならざるもの。

 

 ようやく世間一般の朝が始まるとき、僕らの朝は終わっている。日の出とともに溶けてなくなってしまう。透き通った抜け殻がカーテンの隙間から漏れる光に照らされる。

 いつか童話で見た馬鹿には見えない服のように、覗かれた先に僕らは映らない。影、地中に埋まる蝉、地底に住むもの、海中に住むもの。闇の周波数を抱くものたち。

 黒は絶対王者ではなく、恐れ慄き震えあがりながらもその場に留まる。覇者となるその日を夢見るのではなく、機会を伺い耐え忍ぶ。

 

 ジョークの分からない人は嫌ねと女王様は鼻で笑い、艶やかな唇をこちらに向けて見下ろす。

 虚言が先か欲求が先かそれとも階級か。思惑が交差し空回り。

 

「お嬢さん、お会計を済ませたかい?」

 紳士は軽やかに、但し警戒心を込めて可憐なマドモアゼルを嗜める。

 この世に無料などというものは存在しない。思考も時間も有限かつ有料。対価に貴方は何を支払うか。

 ここまで来ればもう大丈夫。僕の妄言は妄言のまま高らかに詠唱される。

 

 全部、嘘。どこかに真実味があったなら、それは貴方が現実と重ね合わせたに過ぎない。こちとら、それをウリにしているのでね。さて、お代は何かな。