創作再開しました。不定期更新です

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

路地裏の木漏れ日

「それ、絶対伝わってないよ。いいの」 絶対のぜがずぇに聞こえるくらい目一杯引き伸ばされて、それがおかしく笑ってしまう。僕のことを思っているという彼女の身勝手な慈善によって、僕は話せば話すほど悲劇の役者になっていく。 もし僕が泣いて喚いていた…

水中花籠

水泡が消えた。それですべてだった。 涼しげな目元をしていた。音もなく笑う人だった。昼飯は欠かさず汁物を買う人で、箸をつけるのは汁物からという自己の流儀があった。箸が必要以上に汚れないための食べ方らしかった。背筋をピンと伸ばして食べる姿も、歩…

僕のメリさん

午前7時21分、いつもの電車に乗り込めば、物憂げな表情のあの人と出会う。片手にはカバーのかけられた文庫本。 世界中のどこを探しても彼女ほど文庫本の似合う人はいないと思う。彼女の、その少し日に焼けた健康的な肌には、クラフト紙のカバーがよく馴染ん…