2016-01-01から1年間の記事一覧
どうしてかな。 どうして自分だけなんだろう。 一度でもいい。思ったことはないかな。友だちとあそんでいて、ブランコをおしてもらうじゅんばんがこないまま、帰る時間になってしまった。 みんなでうんどう場にいたはずなのに、いつのまにかひとりぼっちにな…
空気を変えたのは隣の子だった。 話したことはない。 私は別の子と仲良くしてたし、グループも違っていた。 何だったら名前もあいまいだ。堂々と自分がしたと宣言した子がいたから、悪い子が決まった。 先生は誰かのせいにしたがっていたから、ちょうどよか…
今日という日が訪れたことを、祝福のようにも、呪詛のようにも思います。あなたが生まれた今日、あなたに似た人に会いました。 寸分も違わずあなたでした。 もちろんそんなはずはありません。 あなたがどんな顔をしていたかも、おぼろげに違いありません。し…
覚えたての、たどたどしい英会話が研究室で反響した。 研究予算が優先され手が回らないのか、あちこちが老朽化している。 ここで地震なんてめったに起きないだろうけど、この耐久性では真っ先に崩れ落ちるかもしれない。 異国というだけで、それでもきらびや…
期日というものが憎らしい。 そもそもこれは、僕の仕事ではない。 先輩からのご指導、悪く言えばていよく押し付けられた残務だ。残業禁止措置でいち早く強制シャットダウンのかかったパソコンに映っていたのは、悲愴な男の顔だった。 僕はこんなに老けていた…
1年前の9月15日でした。 あいにくその日は曇っていて、僕は遠くへ出かける予定をやめて、近くのスーパーへ買い物に行きました。 いつも聞くテーマ曲らしいものを聞き流し、何気なく並んだレジに、君がいました。目も鼻も口も耳も、全部僕の思い描く理想の場…
女々しい兄と、昔からよく比較されてきた。 私はガサツで、大ざっぱで、男みたいな性格だと。 料理だって大味だし、取皿なしに茶碗の上に何でも乗っけるし、あぐらもかく。 豪快に笑うし、いつまでもうじうじと考え込まない。そんな私が、考え込んでいる。 …
前何も考えんでも食えてたもんが、食えへんくなった。 部活で言うたら、俺もオレもって話になって、みんな同じなんやってなった。豆とか、よー分からんもん炊いたんとか出されたら腹立って、食わへん。 やりたいことはやる気出るけど、それも、やろと思てる…
「練習したんで」最近切ったという、前までよりもかなり短く切りそろえられた髪が、風で少し揺れた。 前髪を真っ直ぐに眉毛より上で切るのが、流行っているらしい。 そう言われれば確かに、テレビでも電車でも、そういう子をよく見る気がする。クーラーをき…
誰に何を言われても、変えられなかった。 10以上も下の恋人。 私は30、相手は大学生だった。 周りの視線は痛くて、遊ばれているだけと何度も繰り返し諭された。最初は相手にしてなかった。 お酒をたくさん飲むし、私の知らない遊びを楽しんでいたし、共通の…
最初に交わした言葉はなんだっけ。 君がおかしそうに、たくさん笑っていたことは覚えている。 僕はいつも道化役で、必死になって面白い人、おかしい人になりきった。 どちらかというと、輪の中心にいた気がする。君は友だちと眺めながら、顔を見合わせ、笑っ…
リクネタ。 乃木坂46「僕は咄嗟に嘘をついた」の歌詞から創作。 「好きだ!ぼ、僕と付き合ってください」当時流行っていた少年漫画の真似をして、それは、校庭の鉄棒で行われた。 告白の相手が知っていたかどうかわからない。 僕はとにかく、告白がしたかっ…
リクネタ「御簾にこもる殿方」その2男は真名扱えてこそ一人前。 貴族の長男として育てられたため、礼儀作法と教養は否が応でも身に付いた。 代々殿上人で上の中の部類。暮らし向きも悪くない。 11歳で元服を済ませ、父と同じ役職を与えられるはずだった。あ…
リクネタ「御簾にこもる殿方」その1 日がな御簾に篭もるわれのことを、人は御簾の君などと茶化しているらしい。 遊びや茶会には興味がない上に、のし上がる気もない。 上流でない貴族の、私生活に味がある方がおかしいのだ。仕事が終わると家に戻り、我が家…
人をひどく信用するし、全く信じない。 勘は鋭く落ち込みやすい。 占い師らしからぬ占い師の言うことを話半分に聞き流していた。 そう言われればそうな気もするし、違う気もする。 だいたい、生年月日で僕のことが手に取るようにわかるのが胡散臭い。 信じれ…
すすけていて、先など見えない。 紫や赤などの薄暗い照明と、煙。 今日ここに来ているのは、目にくまをこしらえ生気のない痩せぎすの男と、好色さを顔面に滲み出させた脂ぎった男。 そして、口元にだけ微笑を浮かべた憎々しいほどに脂肪を蓄えた女。 ああい…
名前を呼ばれ、扉を叩く瞬間私の脳裏をよぎるのはいつだって、あの扉。 あれは、15年前。 私は母のあつらえた洋服に身を包んでいた。 被服科を出た彼女は布地を買ってきては、私を着せ替えた。 市販品ではないそれが私だけの特別なもののような気がして、嬉…
緩やかな脱力ののち、吐息が溢れる。 力を抜く心地良さは、味わった者にしか分からない。 噴き出る汗を持参した柔らかなタオルで拭き取り、お茶で喉を潤す。 仕事帰りの疲れた身体に鞭打ち、ジム通いを始めている。 同年代くらいがいれば、若い大学生くらい…
たとえば、誰か大切な人が死んで、僕は泣き崩れる。 周りは僕に同情し、慰める。 死を悼み、思い出しては泣く。 数年もすれば、時折思い出す程度になり、年月がたてば、誰か他の大切な人を見つけるかもしれない。 たとえば、誰か大切な人が死んで、僕は憔悴…
君を迎えに行くよ。 そんな台詞が僕の頭の中で、不意に鳴る。 僕はいつだってこの世界から飛び出す準備をしていて、実際に出られるのを待っている。 世の中では圧倒的多数で男が女を迎えに行き、おしゃれなお店に連れて行く。 甘い酒に付き合い、後でラーメ…
真横に置かれた、グラスに映る顔。肉を頬張るそれを見て、年齢を意識した。 ほんの少し前までは、若く見られていて、老けて見えるよう、貫禄を出せるようこころがけていた。 よく冷えたビールをうまい、と無理やり飲んでいたし、うっすら生えるひげを伸ばし…
訳のわからない歌詞が流れていると落ち着くのは、僕だけだろうか。 意味が分かると、そちらに意識をむけてしまう。 分からないと、気にしなくていいからいい。 誰も僕のことなど気にかけない。 広くも、狭くもない。 誰もが目の前の自分のテリトリーに夢中だ…
何をするにも疲れて、初めて僕は、疲れていると知った。 空腹に耐えかねて、買ってきたオムライスを温めている間、テレビを久々に見る。 不正や汚職など、暗いニュースが目につく。 もし僕がスポーツ好きで、余裕も才能もあったなら、スポーツを続けていただ…
電車に揺られ、夕焼けを眺めていた。 子供連れや、早めの会社帰り、帰宅する、もしくはこれから向かう人たちで、程よく車内は混み合っていた。 席を譲るほどの気概もない僕は、目の前に立つおばさんに目もくれず、携帯を触っている。 腕には、花束を入れた紙…
振り返らずに進む、君の後ろ姿。 月日を感じさせるようで、感じさせない。 好きは、重なりあったときだけ。 僕からは絶対に言わない。言ってやらない。 僕は君を欲しがらない。 君も僕を欲しがらなくなった。 人肌のせい。 ぬくもりのせい。 後ろからぎゅっ…
歯ごたえのない、柔らかなそれは、僕の喉を滑るように通り過ぎた。 記念だからと、大皿に上品に盛り付けられた料理が出てくる。 カタカナで綴られた物珍しいものたち。 美味しいものに歯ごたえはない。 美味しいものに素材の味はあまりない。 美味しいものへ…
テレビをつけた。 特に意味はない。 いや、理由ならあった。 当たり前が当たり前ではなくなったから。 物が消え、少しずつ気配も消えていったから。 いた頃、しょっちゅう話していたわけでもない。 それでも、存在の大きさを実感せざるを得ない。 それくらい…
楽しかったねと振り返ることができたなら、あの夏は終わらなかっただろうか。 いつものように、ごめんねで仲直りできなかった。 ずれだした後はあっけなく過ぎ、 「いらないの、捨てといて」 自分でも驚くくらい事務的な声が出た。 期間は、短くなかった。 …
「だから、違うってば」 「これでいいの。」 特有の、かくばっても丸まってもない、中途半端な形。 一目見て、他の誰でもないと特定できるくらいだ。 そんな使い方はしない、と言っているのに、言うことなど聞きやしない。 誰に似たんだか、親の顔が見たい。…
好きなものを好きと伝えられないで、嫌いなものを好きと言ううちに、嫌いなものを好きになる。 君の中の私は、甘いものが大好きで、そのなかでもふわふわとしたドーナツが好き。 肉が好きで、こってりとした味付けが好き。 優柔不断で、店に入るとほとんど任…