創作再開しました。不定期更新です

あおと煙草

僕は非喫煙者。吸いそうと思われたこともないし、これからも吸うつもりはない。でも、煙草のパッケージは嫌いにはなれなくて、今に至る。

秋の夜長というかもう夜中も深まって下手したら朝じゃんってなりそうな今、頭に思い浮かんだのが煙草だった。なんでや?

吸っている誰かを見るのは好き。でも喫煙所にわざわざ行くほどではない。そもそも赤の他人に興味を持てない。知ってる人のことだけ知りたい。そして歩き煙草はダメゼッタイ。

ちなみに喫煙者は、吸ってなくても会った瞬間にわかる。今のところ外したことはない。警察犬か。残念ながら、煙草に詳しくありませんで、利き煙草はできないけどね。

 

最初に覚えた煙草は、父が吸うショートホープ

赤ラークは祖父。マイルドセブンは叔父が吸ってた。

昔は随分と喫煙環境がゆるく、部屋の至る所に煙草の煙が漂っていた。駅のホームも喫煙所があったし、大抵の飲食店は喫煙可能だった気がする。

そして、昔はもっと歩きながら吸う人がいた。

 

所変わって僕の記憶は、一気に2000年代に。

世の喫煙環境が厳しくなり、僕が初めて就職したところでは、喫煙は規定場所のみ。

指導係は喫煙者で、吸わない僕はなにか話があれば喫煙所まで出向き、煙草の煙と共に色んなことを教わった。

 

喫煙所は様々な煙が入り混じり、吸わない僕の服にも香りが移る。煙草の煙は未だに相容れないけど、残り香は物によっては悪くないなと思ってしまう。

長く過ごせば自然と銘柄も頭に入る。

マールボロ緑。赤茶のキャメル。ラッキーストライクパーラメントJPS

煙草も含めての、その人。街なかでたまに懐かしい記憶が蘇るのは、どこかで同じ煙草を吸う人と遭遇したからかも。

今も吸ってるのかな。電子タバコに鞍替えしてるかな。もうやめちゃったかな。

 

喫煙か禁煙か。お店の二択があれば、禁煙。残り香を残したくはないので、家に帰れば即洗濯、即お風呂にする。

ただ、煙やぽつんと光る赤い火は、記憶に留まり、僕の心を少し豊かにする。

 

煙草は身体に悪くて、人の身体を蝕んで、やめたほうがいいはずなのに、煙草を吸う人は皆、吸っている瞬間、たいそう穏やかな顔をしている。

中にはイライラしかめっ面で吸う人もいるのかもしれないし、今まで私が見てきた人たちにも、そんなときがあったかもしれない。

ただ私の記憶には、他のどの瞬間よりも幸福そうな顔だったようなそんな気がするだけ。

 

芥川龍之介の短編に『煙草と悪魔』という話がある。これが短いながらも考えさせられ、読後しばらくぼーっとしてしまう。重ための煙草を吸った気分。

芥川自身もかなりのヘビースモーカーだったらしい。煙草を吸いながらこの話を書いたと思うと、また考える要素が増える。

 

一本の煙草は、だいたい真ん中を少し過ぎるまでに、消されてしまう。

あの短い時間に、人は少しだけ幸福になる。

そして人を幸福に導いた本体はネジネジされ、灰皿にポイとされるわけだけど、吸口は茶に、先端は黒ずんで、哀愁を帯びる。

 

生まれ変わったら一度ぐらいは吸ってみようかな。そしたらなにか違う世界が見えるかも。

行けたら行くわ、じゃなくて、吸えたら吸うわ。

これ、365%絶対吸わんやつな。