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追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

もっとそばにきて

朝目覚めたとき、朝日が遮光カーテンを潜り抜け、僕に眩しさを届ける。
ティファールモドキに水を注ぎ、寝ぼけ眼のまま歯を磨く。
洗面所兼用の風呂場に入り、手ぐしで適当に寝癖を直し、顔を洗う。
隣で寝ていた彼女は、起きてるときと正反対の大胆さで開脚し、小さな口を目一杯開け、普段の声量じゃ聴いたこともないような大きないびきまでかいている。
肩を揺すると、彼女は
「うーん。キムワイプさん…」
と、突っ込みどころ満載の寝言を披露した。
まず、そもそも彼女は根っからの文系で、
いや、国語、日本史系で英語は毛嫌いしているし、世界史に至っては、中学生もリアクションを取れないくらいには楊貴妃って爪楊枝みたいだね、と絶望的な知識量だし、
そんな彼女がなぜキムワイプなんて代物を知っているのか。
もちろん彼女の日常生活でも、出会う可能性が全くなかったわけではないだろうが、カタカナに疎すぎる彼女が見たこともない単語の商品を買うか、と言われると甚だ疑問である。
そもそも、あれは生きていない。
それに、更に付け加えておくならば、何にでも さん をつけるほど、かわいい趣味は持っていない。
別にそんな子が趣味なわけではないので、突然
「あのね、あたし、次のお休みは一緒にパンダさんがみたいな」
なんて言われた日には、耳を疑うし、二度と言わせないくらいには聞き返すだろう。10回くらい。
まあ、彼女の根気がそこまで持つとは思っていないが。
そんな無駄な思考に意識を巡らせていたところで、彼女は突然身を急速に起こし、目を見開いて目覚めた。
見開いたところでたかがしれた大きさであることは、胸のうちにしまっておく。
「おはよう」
酸欠の金魚のようにせわしなく口を動かし、ごみは捨てておいてとか、なんとか言い、僕の作っておいた朝御飯を高速で咀嚼し、東京ガールズコレクションも驚きの早さで着替え、今日もギネス記録を更新して出掛けていった。
当然ご承知の通り、ギネス記録であることを証明するものはない。蛇足であるが唐突に考え付いたので何の記録かすら考えていない。個々別の記録でいいなら、早着替え、早起き(万人の思う早起きと定義が異なるがこのさいどうでもいい)、早朝飯食いの記録だろうか。
僕はどちらかというと俊敏な部類ではないので、あの瞬発力には脱帽する一方、呆れる。
家事も掃除も洗濯もできなくても、
片付けも貯金もできなくても、
朝に弱くて夜も弱くて、眠り姫のように10時には寝て朝7時まで熟睡しまっても、
それでも、休みが重なった日の朝、
精一杯のデレ要素を出して、君は言う。
聞こえるか、聞こえないかぎりぎりの声量で
怒ったような低い声で、
顔はしっかり仏頂面で、
目線は僕と全然違う方向で、
「もっとそばにきて。」