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追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

恋人

吐く息が、白くなった。
鼻も手もかじかみ、僕は本日何軒目かのコンビニへと足を進めた。
青と白のトレードマーク。
お団子頭の女の子。
吊るされたポップには、茶色と白の紙コップが描かれ、ぽつんと家がたたずんでいる。
定刻を知らせるアナウンスが、時の経過を物語っていた。
温かいものを求めるつもりではあるが、その前に体温を元に戻しておきたい。
適温の店内を歩きながら、普段の癖でお菓子コーナーに行き着いた。
袋に入ったポテトチップ、紙コップのような入れ物に入ったスティックのお菓子、紙ケースに入れられた一口サイズのチョコ、駄菓子、色とりどりのあめ。
「家にあれあるじゃん。無駄遣いだよ」
「いーんだよ、うるさいなー。たまになんだから、いーだろ」
名も知らないカップルの痴話喧嘩が聞こえる。
同棲だろうか。
それにしてはずいぶんと、年が離れている気がする。
家族だろうか。
いや、手を繋いでいることから、家族は除外か。
手を繋ぐ家族もいてるだろうけども、余計な詮索はこの辺りにしておこう。
窓の向こうに目を向ける。
漫画雑誌を立ち読みする少年たちの隙間を通りすぎる人々。
ある人は、襟をたてて背を丸めて、またある人は足早に、コートの前を引き寄せて。
誰もが、家路を急ぐ。
僕は急がない。
ただ、いつかは帰らないといけないけれど。
帰りたくない。
体温は戻った。
家までは、歩けばあと10分。
いつかは、10分ではなかった。
15分、あるいは、20分。
それくらい、気持ちを沈めつつ、表情を取り繕いながら早歩きをしても、時間は長く感じられた。
着けば、笑顔で迎える人がいた。
何度経験しても嬉しい、恋の高鳴り。
初めの頃の初々しさ。
どれくらいの月日がそうさせたのか。
いつしか、家路への足取りは重く、遅く、帰りたくない気持ちへと変わっていった。
決定打はなんだろうか。
思いっきりおならをされたとき。
休みの合う日に、今日は遅くなるからと言われたとき。
足でテレビのリモコンを操作したとき。
鼻をほじった手が、そのまま口に向かっていったとき。
目の前で化粧されたとき。
挙げれば、きりがない。
それまでは目をつぶれたことも、気に障りだす。
それなのに、帰るとこちらに目を向けずに、ぼそっと呟かれるおかえり、がなくなることは想像できない。
なぜか、微笑まで浮かびそうになる。
誰か他の人が君を選ぶなんて考えられないけれど、君が僕以外の、他の人を選ぶなんてことも考えたくない。
情だろうか。
何気ない事実に気づき、久々に、身も心もあたためられていく。
この存在を、人はこう呼ぶ。
恋人。