朝焼けに檸檬

アラサー。創作をしています。不定期更新です

squall

訳のわからない歌詞が流れていると落ち着くのは、僕だけだろうか。
意味が分かると、そちらに意識をむけてしまう。
分からないと、気にしなくていいからいい。
誰も僕のことなど気にかけない。
広くも、狭くもない。
誰もが目の前の自分のテリトリーに夢中だ。
この静謐を、僕は愛する。
その場にいる人誰もが、押し付けがましくもない。
僕は、この中の誰とも親密な話をしたことがない。
当たり障りのない日常会話ですら、記憶にない。
それが許される場なのだ。
腫れ物だから触らないのではなく、誰も僕のことなど気にかけていない。
そう。それが、単純で大事なこと。
人それぞれ、好みや価値観がある。
安さを重視する場合もあるし、人柄を重視する場合もある。
質を重視する場合も、量を重視する場合もある。
僕が重視するのは静謐である。
変化は構わない。調和がそこにあるなら。
急ぎ、慌て、ミスを誘発するような、そんな変化は厭う。
時の流れは僕のペースを待たず動く。
それが心地いい時もあれば、負担に思う日もある。
浴びせられる言葉、映像、香り。
勢いに気圧されて、息が詰まる。
防ぐように、逃げるように、僕は感覚をヴェールに包む。
たとえばマスク、帽子、伊達メガネ、イヤホン。
装備を調え、僕は道を歩く。
自覚すればするほど、いかに自分が気持ちを抑えていたかが分かる。
小雨の降る日、寂れたバス停の前で、熱っぽく見つめられた瞳。
夕暮れ、エメラルド色をした屋根の下でふいに握り返された手のひらの感触。
大きすぎる器に盛られた、僕の舌には甘すぎるケーキに、満面の笑みを浮かべていた。
あまりの甘さに辟易と、苦戦していた僕は、僕の分まで進呈した。
今思えばあれは、君を喜ばせたかったから。
そんなつもりはないと、君の熱意を砕いてしまった。
懸命に表情を取り繕い、唇を噛み締めたのさえ、見惚れる。
それを見つめ続けそうになる自分が嫌で、早急に、足早に、去ったんだろう。
その時は、そんなことを考えもしなかったが。
帰宅する途中で届いた、お礼メールの意味を何度も反芻した。
今日はありがとう。
勝手に舞い上がってしまってごめんなさい。
これからもよろしく。
君を、舞い上がらせた。
君が僕に恋したのか。
じゃあ、僕にこれっぽっちも気持ちが、本当になかっただろうか。
返信しなかったせいで、きっと、君の孤独は増したに違いない。
僕の脳内に思いと言葉が激しく交錯する。
squall。