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追憶の雨の中

アラサー。創作をしています。不定期更新です

籠の中の鳥

あなたが可愛いねとほめたくださったから、私ずっと髪を長くしているのです。
私は長い間あなたの幻影に囚われていて、今も逃れられません。

ありきたりの、どこにでもありそうなお話でしょうか。私だけの独創性、どこから引き出せば良いのでしょう。たとえばあなたの描いてくださった、私の似顔絵。与えてくださった指輪。お揃いにしましょうと買ってくださったマグカップ。あなたからもらったものだけで、今の私が作られています。

あなたは私を疎んじて、どこか遠くへ消えてしまいました。でも私は知っているのです。目を閉じればいつでも、あなたが笑ってくれることを。本当は消えてしまったわけではくて、私を驚かせようとお隠れになっているだけなのでしょう。

揺れる車窓、今日もあなたを探します。私が家を好きなこと、あなたはよくご存知ですよね。あなたを探すためならば、私はどこへでも旅立てるようになりました。これであなたがどこへ行っても、付いていけるようになりましたよ。

私が精神的に辛いと思いを吐露すれば、何時まででも話に付き合ってくれました。そのときのあなたの、底のない、深い暗い濁った黒い目が、たいそう好きでした。優しさのかけらも見当たらない卑屈に淀んだ瞳に心奪われます。

私、最初はあなたのこと好きでもなんでもなかったんです。よく分かってらっしゃるでしょうけれど。溢れんばかりのものを与えられて、困り果ててしまいました。あなたなりの愛情表現だと気付いてからは、あなたが愛おしくなりました。

あなたが濁りのない、澄んだ色をしているとき、私はあまりの明るさに怯えていました。目をそらせば肩を掴まれ、微笑みを絶やさないまま耳元に息がかかります。

「大丈夫だよ」

全然大丈夫ではありません。どうして軽々しく言えるのでしょうか。好きでもなんでもないどころか、私はあなたを嫌いでした。だから困らせて辛い思いをさせてやろうと企んだのです。

あなたの瞳が涙に濡れたとき、苦痛に歪んだとき、初めて生きた心地がしました。生きようと思いました。

あぁ、いらっしゃったわ。あなた。見つけました。もう逃がすもんですか。

「君、あの子の知り合いかね」

通りすがりのおじさまが、私に声をかけてきました。あなた、こちらでは有名人ですのね。顔はかわいいですものね。

「知り合いではなくて、恋人」

おじさまに軽く返事をし、浮き立った足どりで近づいていきます。

「誰?」

吐き捨てるような声がたまりません。名前を告げて表情が凍らせるまで、あと3秒といったところかしら。