創作再開しました。不定期更新です

60通目の真実

 本日こうして書面を差し上げたのは他に理由がないことを、明晰な貴方ならお分かりでしょう。そうです。私のことについてに決まっております。貴方が必要以上に詮索なさるものですから、つい余計なことまで口走ってしまいそうになるのを、必死に抑えて耐え忍びました。書面ならば、言い過ぎてしまう心配はありません。ですが、説明責任を果たさねばなりませんから、包み隠さず、なるべく要領を得たような書き方になるよう努めます。卑怯だとおっしゃるかもしれませんが、私にとっても、貴方にとってもこの形が最善であることをどうかお含みおきくださいましね。

まず私は貴方の思うような人徳のある幸福な人間ではございません。どうも貴方は私を過剰に評価し過ぎているように思われます。何故そう申すかに取り立てて理由はないのですが、ただ何となく貴方の話ぶりから、私のことをそう考えていらっしゃるように思うのです。自身を卑下するつもりはありませんが、私は非常に簡素な出来の人間です。褒められれば図に乗り、貶されれば傷つきます。面白みのないことを自覚しておりますし、貴方も私とお話ししながら何度かあくびされていましたから、よくご存知のことでしょう。要するにできの悪い部類に属しております。

これでもよくできることもあります。こうして文章を考えること、他人に同調すること。私の身につけた世渡り術です。良いか悪いかはわかりませんけれども、こうして生きながらえているのですから、そう悪くないと自負はあります。

色々申し上げましたけども、結局は、目をつぶって歩いてきたに等しいかもしれません。なすがまま、なされるがままの人生でございました。

ところで私、どなたに向けてお手紙を差し上げているのかしら。嘘、貴方の名前を失念してしまいそうなふりをしてみました。よく存じ上げておりますわ、忘れるものですか。貴方は自信。私がいつかどこかで落っことしてしまったもの。私ずっと貴方を探しておりますのに。昨日も貴方を探して、私の枕はすっかり涙に濡れてしまいました。大きくマジックで私の名前を書いておけば良かったのですね。そしたらどなたか拾ってくださったかもしれません。まあ、なんて他力本願なのかしらと我ながら呆れます。

お遊びはこの辺にして、もう寝ます。明日がありますから。希望の明日、二度と訪れない特別な一日。そんなふうに日常を飾っていれば、華やかさに釣られて貴方はやってくるのかしら。貴方には笑顔がよく似合いますもの。ね、貴方。