創作再開しました。不定期更新です

生きてる生きてく

どうしてかな。
どうして自分だけなんだろう。
一度でもいい。思ったことはないかな。

友だちとあそんでいて、ブランコをおしてもらうじゅんばんがこないまま、帰る時間になってしまった。
みんなでうんどう場にいたはずなのに、いつのまにかひとりぼっちになっていた。
自てん車をこいでいて、いきなり、声を上げてなきたくなってしまった。

どんなことでも、それはちっともおかしいことじゃない。
だれにも言えない、ふしぎな気持ち。
まるで、わたがしが体の中にできてしまったみたいにあまくて、でもそれが、くもりの日のねずみ色で重たい雲のようにも思えてしまう。

君だけじゃないんだよ。
だれにでもあることなんだ。
だけど君には、それがわからない。
それでもなんとかなってしまうこともある。
だって、いつもしんどいわけじゃないから。
君はときどきそれを思い出してしまうくらいでいい。
でも、苦しくてたまらなくなって、ひざをかかえ、いまにもなみだがこぼれおちそうなときがくる。

ぼくは、君よりちょっとだけおとなだ。
だから君より、ちょっぴり知っていることがある。
いつか、きてほしくはないけれど、どうしようもなくなきそうになってしまったときのために、知っておいてほしい。

君のとなりには、あの子がいる。
いきなりでびっくりしたかな。
わるいやつではないよ。
考えてもみてほしい。
君をこわい気持ちにさせたり、がぶりと食べてしまったりするようなわるいやつなら、いつでも君のとなりにいるはずない。

君はかしこいから、すぐにわかるよね。
そう。あの子は君をまもってくれる。
君がしんどくなったとき、話し相手がほしくなったとき、あの子がいる。
だから君は、けっしてひとりぼっちだなんてさみしいこと、考えないでほしい。

ある日帰ってきたら、れいぞうこにだいすきなプリンが入っていたことはないかい。
それはあの子からのプレゼントさ。
君がわらっていると、あの子もうれしいんだ。

もちろん、見えるものがすべてじゃない。
君にはむずかしいかもしれないけれど、見えなくたってたいせつなものはあるんだよ。

なにか、なりたいものやしたいことがあるのなら、それにむかってすすめばいい。
なにもないのなら、それをさがすためにすすめばいい。

あの子は君をばかにしない。
どんなことでも、君ががんばるなら支えてくれる。
がんばらなくても、じっとそばにいてくれる。

あの子に名前はない。
そして、君がつよくねがえば、いつでも会える。
おばけやゆうれいやようかいなんかと、いっしょにされてはこまる。
あの子はあの子だよ。
君が思ったとおりのすがたさ。

君のたいせつな人たちにも、あの子はいる。
一人ひとりにいてくれる。
あの子はやさしいから、「とくべつ」をつくらない。
もちろんぼくにもいる。

そうそう、たいせつなことだけど、あの子の話はぼくと君だけのひみつだよ、いいね。
かわいそうだけど、あの子が見えていない人のほうが、ずいぶんふえてしまった。
見えない人にとってあの子の話は、とても気持ちがわるいらしい。
話したら君にもうつってしまうし、あの子もしんどくなってしまう。
だからいいね、ふたりのひみつだよ。

君はとても頭がいい。
そして、人をしんじるゆうきがある。
ほんとうは言っちゃいけなくて、じぶんで気づかないといけないことだったんだけど、つい話してしまったよ。

あぁ、もう時間だ。
よるがきて、あさがくる。
ぼくも君もあの子もみんなねむって、またおきる。そうやって、

生きてる生きてく

GAME

空気を変えたのは隣の子だった。
話したことはない。
私は別の子と仲良くしてたし、グループも違っていた。
何だったら名前もあいまいだ。

堂々と自分がしたと宣言した子がいたから、悪い子が決まった。
先生は誰かのせいにしたがっていたから、ちょうどよかったみたい。
特に誰かが悪いわけじゃなかった。
騒いでいる何人かがいた。

私じゃない。
私はどっちかって言うとジミーズって感じだから。
で、どっちかって言うと隣の子はハデ。

言った途端にあっという間にその子だけが悪いことになって、その子が言い出したとか言われて、ほんとは違う子なのに怒られるべき他の子は何も言わない。

次からしないようになんて、効果のない言葉でその場はなんとか収まったけど、それから変になった。

日々起きるほとんど全ての悪い出来事の中に、その子がいた。
本当だったのか、誰かがなすりつけたのか、私は知らない。
全てではないと思いながら、私はそれを口にしなかった。
そして本人も肯定し続けた。

友達でも何でもない。
同情の気持ちもない。
ただ、私は聞いてしまった。

「アタシが悪かったらみんな安心でしょ」

聞き取れたのは私だけ。
そこまで自己犠牲的な気持ち、私は到底芽生える気がしない。
なんと表現していいか分からないけれど、楽しんでいる気がした。
怒られるのも、悪い子になるのも。
あの子はあえてその位置に立ってる。
たった一人で。
望まれる姿になりきっている。
終わりも始まりもこれからも、自分の選んだ道を歩き続ける。

GAME。

愛は風のように

今日という日が訪れたことを、祝福のようにも、呪詛のようにも思います。

あなたが生まれた今日、あなたに似た人に会いました。
寸分も違わずあなたでした。
もちろんそんなはずはありません。
あなたがどんな顔をしていたかも、おぼろげに違いありません。

しかし、それはあなたでしかあり得ないほど、あなたでした。
心のどこかでそれを望んでいたのかもしれません。
そんなことを言うと、あなたに期待を持たせてしまうでしょうか。
あと5秒、もし目があっていたら、僕はところ構わず泣いていたかもしれません。

あなたに会いたいのでしょうか。
そんなはずはありません。
何より僕が望んでいないのです。

いつだったか、あなたと連絡を取りました。
僕は気の合う友達として接しようとしていました。
あなたは、あわよくばまた恋人になることを望んでいたような気がします。
温度差と違和感に、連絡をしなければよかったと後悔をしました。
それが、決定的瞬間でした。
二度と連絡ができないようにしました。

忘れたはずでした。
少なくとも数日前まで片時も思い出すことはなかったのです。
おかしな表現でしょう。
それぐらい固い意志でした。

毎年この日が来ると思いだしてしまうのです。
忘れられないのが恐ろしいのです。
そして同時に、嬉しくも思うのです。
ただの一度でも、こうして忘れられぬ人を愛してしまったことがあることを。

二度はないのかもしれません。
あるのかもしれません。
僕にはわかりません。
あなたともう一度、手を繋げる日がないことはわかっています。
僕が望んでいないのです。
繰り返し言うくらいだから、確かです。

こんな気持ちなのに、こうして思い出してしまったこと、それを伝える手段すらないことを、許して下さい。

きっとあなたなら、寛容に許してくれるでしょう。
あなたのその優しさを愛していました。
そして、憎んでいました。

さようなら。
来年、また過去のあなたに会いましょう。
そして、未来のあなたに捧げます。
過去と未来の僕を。

きつく、荒々しく、そして穏やかに。
僕とあなたの間に吹きすさびます。
愛は風のように。

on and on

覚えたての、たどたどしい英会話が研究室で反響した。
研究予算が優先され手が回らないのか、あちこちが老朽化している。
ここで地震なんてめったに起きないだろうけど、この耐久性では真っ先に崩れ落ちるかもしれない。
異国というだけで、それでもきらびやかさを感じてしまう。

友人に誘われた講演に感動し、留学を決めた。
僕が興味を持っていた、とある場所についての考察だった。
学会の風潮から逸脱して独創的な論文を発表していた人だったから、名前にも聞き覚えがあった。

フィールドワークに同行したり、発掘現場に同行したりしながら、日々が過ぎていく。
研修生の立場でありながら、おかしいと思うところは主張するようにと言われていた。
研究の常で、新しいことなどすぐには出てこない。
だが、共通の目的意識がある仲間たちといるだけで、充実している。

一縷の望みの証明に、僕らは追う。
ガセかもしれないことでも、疑う前に調べる。
その日が徒労に終わっても、不思議と疲れはない。
蓄積こそが糧となる。
神は我々を試していらっしゃるのだ。
そういうふうなことを、教授も繰り返しおっしゃっている。

いつか新聞や教科書に載るような、偉業を成し遂げられるだろうか。
酒の席で思わず、つぶやいたことがある。
半分以上聞き取れなかったが、彼らの表情から失言だったと悟り、すぐに謝罪をした。

名誉のためではない。
未来のための投資だ。
神は必ず我らを見てくださっている、と言うのが、彼らの主張であった。
それを聞いてから、僕は彼らが十字を切るとき、見様見真似で実践している。
それをするなら洗礼を受けなさいとも言わず、温かく見守ってくれている。
礼拝も連れて行ってくれる。
初めてまともに聞いた讃美歌は清らかで美しかった。

僕は彼らの信仰の半分も知らない。
だが傍観ではなく、同じ位置に立つのでもなく、彼らの信仰を尊重したい。
わずかでもここにいる以上、僕はそうしなければならない気にさせられる。
彼らの機嫌を取る、というつもりはなく、自然とそう思わされた。

この街の陽射しせいもあるだろうか。
偽りを許さぬ強い日差しでありながら、陰湿さはない。
白か黒か、はいかいいえかをまず区別することの多い国らしい陽気である。
朝は寒い日すらあり、1日に四季を感じる。

彼らは繰り返し、今日もつぶやく。
蓄積を脈々と続けていくことに対して。
平易な単語で、僕もすぐ覚えられた。

on and on

Running Through The Dark

期日というものが憎らしい。
そもそもこれは、僕の仕事ではない。
先輩からのご指導、悪く言えばていよく押し付けられた残務だ。

残業禁止措置でいち早く強制シャットダウンのかかったパソコンに映っていたのは、悲愴な男の顔だった。
僕はこんなに老けていただろうか。
少し前までは5歳は若く見られていて、早く老けて見られたいと思っていた。
そんな過去が夢のようだ。

先輩よりも早く出社するため、朝5時に起きる。
二度寝防止で目覚ましを何度も鳴らすから、寝起きはいつも最悪だ。
ぼんやりしたまま知名度だけで選んだ電車に揺られる。

最寄り駅をターミナル駅にしたせいで、いつも電車は定員なんてものがまやかしに思えるほど混んでいる。
痴漢に間違えられないよう両手を上げ、鞄を股に挟み、毎朝必死になる。

残業代を出さない言い訳のようにつけられた、名ばかりの管理職が口惜しい。
俗に言う中間管理職。後輩の指導ではなめられ、上司や先輩はにらみをきかせ、毎日板挟みの連続。
一昨日も、後輩の会議レポート提出がないと大目玉を食らった。
期限を督促するメールを打ったが、謝罪の前に言い訳と愚痴をタバコ休憩のときに言われ、辟易した。

上の指示がいい加減だからと言われたが、その指示をいい加減にしたのは僕ではないし、事前に準備をしておかなかったのは、どう考えても自分が悪い。
そして、中学生でもあるまいし、いちいち内容のチェックまでこちらの目を通す必要性を感じられない。

褒めたら伸びる系なんすよね、と言うこいつを、一体どう褒めたらいいのか。
後輩指導にはいつも悩んでいる。
ご飯に連れて行こうとすると、業務外で拘束はマジ勘弁して下さい、と言われるし、会社の中ではまだまだ若手のつもりではいたが年齢差を感じる。

そういう状況を見ても指導がなってないらしい。
僕の育て方から正しくなかったのでは、と喉元まででかかるが、内に秘めておく。
かつて飲みニケーションなどと言われた時代はもはや古く、現代には通用しない。
新しい方法を考えなければ。

「頼むよ、いい知恵くれよ、お前と僕の仲だろ」

呼び出したのは、学年一どころか、学校始まって以来の優等生かつ、卒業後は社長をしている奴だ。
以前事業内容を聞いたが、複雑すぎて一般人には理解不能だった。
名前が近いというだけで親しくなり、こうして働き出してからも会っている。
じゃあお前も起業すれば、と流すのではなく、親身に相談に乗ってくれる。

「え、何だって?」

早口に言われた言葉を、聞き返す。

「Running Through The Dark」

moon

1年前の9月15日でした。
あいにくその日は曇っていて、僕は遠くへ出かける予定をやめて、近くのスーパーへ買い物に行きました。
いつも聞くテーマ曲らしいものを聞き流し、何気なく並んだレジに、君がいました。

目も鼻も口も耳も、全部僕の思い描く理想の場所にありました。
こんなことって、一生に一度もあるかわかりません。
だから、そう考えると僕は非常に幸運な人だと言えるでしょう。
そして、僕は君を好きになる運命だったのかもしれません。

運命は必然だと、聞いたことがあるような気がします。
そんな、僕が好きになった運命の相手。
十五夜に現れた、月のお姫様。
それが君でした。

お会計してもらうとき、君の苗字を知りました。
君の顔にぴったりで、僕が予想していた範囲に収まりました。
何度か通い、君のシフトを知りました。
君は夕方から夜にいることが多く、土日に出る代わりに月曜日が休みでした。

しばらくしてから、従業員同士の会話から、君の名前を知りました。
意外な感じのする名前でしたが、何度も自分の部屋で繰り返し君の名前を呼んでいると、違和感がなくなりました。
愛の力の勝利ですね。

仕事が終わる時間帯に合わせて、外をうろつき、君の私服を知りました。
僕好みの膝丈スカートで清楚な感じが出ていて、さらに好印象でした。
後を追いかけて、最寄り駅と家を知りました。
行き帰りが少し遠いので、雨の日は車でお迎えしてあげたいと思いました。

何度か、スーパーで買い物をしたお菓子を、君にプレゼントしました。
女の子は甘いものが好きでしょう。
実際、とても喜んでくれました。

僕はそのへんの男と違いますから、すぐ連絡先を聞こうとかそういう軽々しいことはしません。
君も僕を意識してくれているのか、僕がレジに並ぶと、他の従業員が出てきてレジを代わったり、僕の顔を見ると笑顔で会釈し、足早に去って行ったりしました。

今日は君に出会って1年目の記念日です。
十五夜だし、お姫様だし、お団子をプレゼントしました。
近頃帰り道は、新しく入った女の子と二人で帰っていて、家に帰らない日も多いみたいです。
ちょっと心配ですが、僕は親でも何でもないので、いらない心配ですよね。

家に帰って、月を眺めました。
天気が心配でしたが、今日はとても綺麗に見えています。
どこかで君も、見ていますよね。だって、月のお姫様ですから。

僕たちは見えない何かでちゃんと繋がってます。
付き合うとか、そういうくだらない次元よりも高尚な、特別な関係です。
君の笑顔がすぐ思い浮かびます。
今夜も最高の夢が見られそうです。

みつめていたい

女々しい兄と、昔からよく比較されてきた。
私はガサツで、大ざっぱで、男みたいな性格だと。
料理だって大味だし、取皿なしに茶碗の上に何でも乗っけるし、あぐらもかく。
豪快に笑うし、いつまでもうじうじと考え込まない。

そんな私が、考え込んでいる。
全ては、煮え切らない彼のせい。
もう、付き合って4年経つ。
私は彼の親を知っているが、彼は私の親を知らない。
会わないからだ。
付き合っていることすら言ってない。

幾度となく、勧めてはきた。
日程だって空けようと思えばいつでもできる。
彼の、繊細なところが好きだったが、煮え切らなさすぎた。

第一彼は、付き合うときから言葉にしなかった。
いつの間にか付き合っていた。
私ばっかりが好きで、追いかけて追いかけて、好きだと言っても、しばらく好きと返してくれなかった。

彼は、いつまで中途半端を続けるのだろう。
指輪も何も、与えられてない。
これからもずっと一緒にいたいとか、そういうのもない。

先について問うと、考えていると彼は言う。
何を、とは問えなかった。
あれは私の早合点で、彼にその気はないのだろうか。
じゃあなんで親に会わせるのか。
まだ早いのか。
いつなのか。
待っていられない。

私はただ、言葉が欲しい。
結婚しようとか、定番のプロポーズとか、そういうのが欲しい。
彼の方がいい年をした大人で、しかも一度は、そういうことをしたはずなのに、なぜ私には言わない。

私が子どもだからか。
年齢的にまだ幼いからなのか。
こんなにも、誰かを愛しいと思ったのも彼が初めてなのに。

気づけば、花を買っていた。
真っ赤なバラ。
自分がして欲しいことを、してくれないなら自分でしようと思った。
次に指輪。
もちろん指のサイズなんて、知らない。
深夜、隣でぐっすり眠る彼の手を取り、通販で買った指輪のサイズを測る器具をはめ込んだ。

店員の訝しげな視線を他所に、自分用と彼とのペアリングを求めた。
自分で、彼との相談もなしに買う結婚指輪。
ちゃんと、給料3ヶ月分の価格。
単なるロマンという名の自己満足のために、現金一括払いをしてきた。

私の愛した男が普通でないのだから、仕方ない。
手のひらで輝く、店員にはめられた小粒の光が誇らしげに輝いていた。
不思議と、悲しさはなかった。
なんて私はたくましく育ってしまったんだろう。

あとは、プロポーズの場所である。
夜景の見える少し高めのコース料理が出る店に、予約を入れた。
ベタだが、他に思いつく案もない。
彼の誕生日に合わせて設定した。
ケーキと花束を出すタイミングも、店員に話してある。

「一生幸せにする。愛してる。結婚して下さい」

手際よく取り出した指輪を見つめる瞳を、揺れるろうそくの光が照らす。
彼が、消え入りそうな声ではい、と返事をしたあと、座席から立ち上がり、彼を抱きしめた。

彼の涙を見ながら、やっぱり私は間違っていなかったのだと、確信する。
兄のように女々しくて、頼りなくて、ついつい世話を焼いてしまう。
まさかこんなことまで世話を焼くことになるとは思わなかったが。

「転勤の前に、伝えたかった」

「ありがとう」

「明々後日、休みでしょ。親の予定空けてるから、家に行こう」

「うん、待たせてごめんね」

「いいよ。そういうところも好き」

まだ涙に濡れている彼の瞳。
いつまでも見ていたい。
これからも、ずっと。

みつめていたい。