創作再開しました。不定期更新です

Running Through The Dark

期日というものが憎らしい。
そもそもこれは、僕の仕事ではない。
先輩からのご指導、悪く言えばていよく押し付けられた残務だ。

残業禁止措置でいち早く強制シャットダウンのかかったパソコンに映っていたのは、悲愴な男の顔だった。
僕はこんなに老けていただろうか。
少し前までは5歳は若く見られていて、早く老けて見られたいと思っていた。
そんな過去が夢のようだ。

先輩よりも早く出社するため、朝5時に起きる。
二度寝防止で目覚ましを何度も鳴らすから、寝起きはいつも最悪だ。
ぼんやりしたまま知名度だけで選んだ電車に揺られる。

最寄り駅をターミナル駅にしたせいで、いつも電車は定員なんてものがまやかしに思えるほど混んでいる。
痴漢に間違えられないよう両手を上げ、鞄を股に挟み、毎朝必死になる。

残業代を出さない言い訳のようにつけられた、名ばかりの管理職が口惜しい。
俗に言う中間管理職。後輩の指導ではなめられ、上司や先輩はにらみをきかせ、毎日板挟みの連続。
一昨日も、後輩の会議レポート提出がないと大目玉を食らった。
期限を督促するメールを打ったが、謝罪の前に言い訳と愚痴をタバコ休憩のときに言われ、辟易した。

上の指示がいい加減だからと言われたが、その指示をいい加減にしたのは僕ではないし、事前に準備をしておかなかったのは、どう考えても自分が悪い。
そして、中学生でもあるまいし、いちいち内容のチェックまでこちらの目を通す必要性を感じられない。

褒めたら伸びる系なんすよね、と言うこいつを、一体どう褒めたらいいのか。
後輩指導にはいつも悩んでいる。
ご飯に連れて行こうとすると、業務外で拘束はマジ勘弁して下さい、と言われるし、会社の中ではまだまだ若手のつもりではいたが年齢差を感じる。

そういう状況を見ても指導がなってないらしい。
僕の育て方から正しくなかったのでは、と喉元まででかかるが、内に秘めておく。
かつて飲みニケーションなどと言われた時代はもはや古く、現代には通用しない。
新しい方法を考えなければ。

「頼むよ、いい知恵くれよ、お前と僕の仲だろ」

呼び出したのは、学年一どころか、学校始まって以来の優等生かつ、卒業後は社長をしている奴だ。
以前事業内容を聞いたが、複雑すぎて一般人には理解不能だった。
名前が近いというだけで親しくなり、こうして働き出してからも会っている。
じゃあお前も起業すれば、と流すのではなく、親身に相談に乗ってくれる。

「え、何だって?」

早口に言われた言葉を、聞き返す。

「Running Through The Dark」