1次創作
最初に交わした言葉はなんだっけ。 君がおかしそうに、たくさん笑っていたことは覚えている。 僕はいつも道化役で、必死になって面白い人、おかしい人になりきった。 どちらかというと、輪の中心にいた気がする。君は友だちと眺めながら、顔を見合わせ、笑っ…
リクネタ。 乃木坂46「僕は咄嗟に嘘をついた」の歌詞から創作。 「好きだ!ぼ、僕と付き合ってください」当時流行っていた少年漫画の真似をして、それは、校庭の鉄棒で行われた。 告白の相手が知っていたかどうかわからない。 僕はとにかく、告白がしたかっ…
リクネタ「御簾にこもる殿方」その2男は真名扱えてこそ一人前。 貴族の長男として育てられたため、礼儀作法と教養は否が応でも身に付いた。 代々殿上人で上の中の部類。暮らし向きも悪くない。 11歳で元服を済ませ、父と同じ役職を与えられるはずだった。あ…
リクネタ「御簾にこもる殿方」その1 日がな御簾に篭もるわれのことを、人は御簾の君などと茶化しているらしい。 遊びや茶会には興味がない上に、のし上がる気もない。 上流でない貴族の、私生活に味がある方がおかしいのだ。仕事が終わると家に戻り、我が家…
人をひどく信用するし、全く信じない。 勘は鋭く落ち込みやすい。 占い師らしからぬ占い師の言うことを話半分に聞き流していた。 そう言われればそうな気もするし、違う気もする。 だいたい、生年月日で僕のことが手に取るようにわかるのが胡散臭い。 信じれ…
すすけていて、先など見えない。 紫や赤などの薄暗い照明と、煙。 今日ここに来ているのは、目にくまをこしらえ生気のない痩せぎすの男と、好色さを顔面に滲み出させた脂ぎった男。 そして、口元にだけ微笑を浮かべた憎々しいほどに脂肪を蓄えた女。 ああい…
名前を呼ばれ、扉を叩く瞬間私の脳裏をよぎるのはいつだって、あの扉。 あれは、15年前。 私は母のあつらえた洋服に身を包んでいた。 被服科を出た彼女は布地を買ってきては、私を着せ替えた。 市販品ではないそれが私だけの特別なもののような気がして、嬉…
緩やかな脱力ののち、吐息が溢れる。 力を抜く心地良さは、味わった者にしか分からない。 噴き出る汗を持参した柔らかなタオルで拭き取り、お茶で喉を潤す。 仕事帰りの疲れた身体に鞭打ち、ジム通いを始めている。 同年代くらいがいれば、若い大学生くらい…
たとえば、誰か大切な人が死んで、僕は泣き崩れる。 周りは僕に同情し、慰める。 死を悼み、思い出しては泣く。 数年もすれば、時折思い出す程度になり、年月がたてば、誰か他の大切な人を見つけるかもしれない。 たとえば、誰か大切な人が死んで、僕は憔悴…
君を迎えに行くよ。 そんな台詞が僕の頭の中で、不意に鳴る。 僕はいつだってこの世界から飛び出す準備をしていて、実際に出られるのを待っている。 世の中では圧倒的多数で男が女を迎えに行き、おしゃれなお店に連れて行く。 甘い酒に付き合い、後でラーメ…
真横に置かれた、グラスに映る顔。肉を頬張るそれを見て、年齢を意識した。 ほんの少し前までは、若く見られていて、老けて見えるよう、貫禄を出せるようこころがけていた。 よく冷えたビールをうまい、と無理やり飲んでいたし、うっすら生えるひげを伸ばし…
訳のわからない歌詞が流れていると落ち着くのは、僕だけだろうか。 意味が分かると、そちらに意識をむけてしまう。 分からないと、気にしなくていいからいい。 誰も僕のことなど気にかけない。 広くも、狭くもない。 誰もが目の前の自分のテリトリーに夢中だ…
何をするにも疲れて、初めて僕は、疲れていると知った。 空腹に耐えかねて、買ってきたオムライスを温めている間、テレビを久々に見る。 不正や汚職など、暗いニュースが目につく。 もし僕がスポーツ好きで、余裕も才能もあったなら、スポーツを続けていただ…
電車に揺られ、夕焼けを眺めていた。 子供連れや、早めの会社帰り、帰宅する、もしくはこれから向かう人たちで、程よく車内は混み合っていた。 席を譲るほどの気概もない僕は、目の前に立つおばさんに目もくれず、携帯を触っている。 腕には、花束を入れた紙…
振り返らずに進む、君の後ろ姿。 月日を感じさせるようで、感じさせない。 好きは、重なりあったときだけ。 僕からは絶対に言わない。言ってやらない。 僕は君を欲しがらない。 君も僕を欲しがらなくなった。 人肌のせい。 ぬくもりのせい。 後ろからぎゅっ…
歯ごたえのない、柔らかなそれは、僕の喉を滑るように通り過ぎた。 記念だからと、大皿に上品に盛り付けられた料理が出てくる。 カタカナで綴られた物珍しいものたち。 美味しいものに歯ごたえはない。 美味しいものに素材の味はあまりない。 美味しいものへ…
テレビをつけた。 特に意味はない。 いや、理由ならあった。 当たり前が当たり前ではなくなったから。 物が消え、少しずつ気配も消えていったから。 いた頃、しょっちゅう話していたわけでもない。 それでも、存在の大きさを実感せざるを得ない。 それくらい…
楽しかったねと振り返ることができたなら、あの夏は終わらなかっただろうか。 いつものように、ごめんねで仲直りできなかった。 ずれだした後はあっけなく過ぎ、 「いらないの、捨てといて」 自分でも驚くくらい事務的な声が出た。 期間は、短くなかった。 …
「だから、違うってば」 「これでいいの。」 特有の、かくばっても丸まってもない、中途半端な形。 一目見て、他の誰でもないと特定できるくらいだ。 そんな使い方はしない、と言っているのに、言うことなど聞きやしない。 誰に似たんだか、親の顔が見たい。…
好きなものを好きと伝えられないで、嫌いなものを好きと言ううちに、嫌いなものを好きになる。 君の中の私は、甘いものが大好きで、そのなかでもふわふわとしたドーナツが好き。 肉が好きで、こってりとした味付けが好き。 優柔不断で、店に入るとほとんど任…
誰でもいいわけじゃないのに、誰でもいいような、そんな言い方をしてみる。 相手は怒る。 もしくは、同意し、お互いを偽ったまま、関係が進む。 夏場の、しばらく放置されたアイスコーヒーのような、生ぬるさ。 あるいは、風呂から上がって、少しのぼせ、ぼ…
始めは、大概統率がとれていない。 指揮が機能していないと、混乱を呼ぶ。 指揮は、偉そうであってはいけないが、頼りなくても困る。 綿密な打ち合わせ、緊急時の対処法、何かひとつでも欠ければ、今後に関わる。 何も、始めだけが肝心なわけではない。 折に…
ここは大事だからと言われた、マーカーの箇所をまとめ直す。 たくさん引きすぎて、よくわからないけれど、大事なんだろう。 先生が声を大きくしたところも、大事だという印をつけている。これも書かないと。 こんなにきちんと聞いてるのに、僕のテストはいつ…
眠い目をこすり、送信ボタンをぽちり。 君への誕生日メール。 12時ぴったりに送るなんて風習、誰が始めたのか。 面倒だけれど君が待ってくれているなら、仕方ない。 義務のようになっている3年目のメール。 どちらかがやめれば終わるはずなのに、続いている…
買ったばかりのイヤホンが、お気に入りの音楽を流す。 アップテンポで、鳴るだけで僕のテンションはちょっと上がる。 うっかり、リズムを刻んでしまいそうになる。 こんな、都会の町中で。 リュックサックには、最低限の着替えと荷物。 重たくなるのは苦手だ…
本日はグリーンティーホットケーキのご紹介です。 まず、グリーンティーの分量は大さじ5杯。 生姜を1.5センチ加えまして、卵1個に水150ミリリットル。 ホットケーキミックスは200グラムご用意ください。 だまにならないよう、ボウルでかき混ぜます。 油を引…
吐く息が、白くなった。 鼻も手もかじかみ、僕は本日何軒目かのコンビニへと足を進めた。 青と白のトレードマーク。 お団子頭の女の子。 吊るされたポップには、茶色と白の紙コップが描かれ、ぽつんと家がたたずんでいる。 定刻を知らせるアナウンスが、時の…
ご飯を炊く。3合、まとめて。 僕の家の炊飯器の限界。 「のの連続」とご丁寧にご指摘されたが、そのまま無視して入力する。 布団を干す。 よく晴れた日で、髪を切ったり、手首を切ったりはしないが、気持ちのいい空だ。 やかんがつかの間騒々しく鳴り響き、…
朝目覚めたとき、朝日が遮光カーテンを潜り抜け、僕に眩しさを届ける。 ティファールモドキに水を注ぎ、寝ぼけ眼のまま歯を磨く。 洗面所兼用の風呂場に入り、手ぐしで適当に寝癖を直し、顔を洗う。 隣で寝ていた彼女は、起きてるときと正反対の大胆さで開脚…
そらはたいてい空を指し、大空も蒼空も翔も颯も天も大翔も、穹も、そらだ。 僕は空がなぜそんな字になったのか、他のそらと読む字にある共通点はあるのか、考えたことがある。 実はあのそらたちは、全て、虚に集約されているのではないか。 そらと呼ばれる、…